八戸市の海側に「種差海岸」という景観地があります。
三陸海岸の北端にあって、青森、岩手、宮城に続くリアス式海岸の始点というか終点というか。
天然の芝生に覆われた広い敷地です。
ゆるやかに起伏もあり、散歩すると靴底にモフモフした感触があって足に優しい海岸です。

地元民ならずとも魅力があるらしい
コロナ過前、僕が会社員だった頃に、仙台に出張した時のこと。
仕事が終わり、その夜、同行していた同僚と2人で仙台駅近くの居酒屋に入った。
案内されたテーブルの隣には、僕たち同様スーツ姿の30代~40代位の4人組のお兄さん達。
既に盛り上がっている。 声も大きくなっている。
聞くともなしに耳に入ってきた話で判断するには、4人は同じ会社ではなく、それぞれが同業種メーカーの営業マンで、顔なじみで、今回イベントがあって仙台で顔を合わせたらしい。
その中の会話で喜ばしい話がありました。
これまで短期であれ長期であれ、何度も出張してきた彼らならではの話です。
『これまで行った場所でどこが良かったか。』
富山だ、長野だ、北海道だと、自分の地元自慢のような話の中に八戸も出てきた!
「青森の八戸って知ってる?」
「ああ、知ってるよ。」 「行ったことあるよ。」 「俺はないな。」
「種差海岸って知ってる?」
「聞いたことあるけど行ったことない。」 「いや、知らない。」 「俺も知らない。」
「機会があったら寄ってみれば良いよ。すごく良いところ。俺は八戸に住んでも良いと思ったよ。」
なんて素晴らしい人なんだろう。
かと言って、僕たちは馴れ馴れしく話に割り込んだりはしない。
会話している風を装いながら聞き耳を立てていました。
彼は、種差海岸について語った
ある年の夏、彼は仕事で八戸に来た時に、取引先の会社の人に連れられて種差海岸に来た。
とても天気が良い日で、彼はまず、空と海の青と天然の芝生の緑の美しさに感動した。
芝生の上を歩いた時の感触は心地よく、会社の人に言われるまま、躊躇なく靴を脱いで歩いた。
BGMは、ウミネコの絶え間ない鳴き声と波の音。
風に乗って、遠く近く聞こえた。

芝生は海に向かって緩やかに坂になって、降りていくとすぐに巨岩の群れがあって、磯になっている。
その辺りに座って、波の音はず~っと聴いていられた。

芝生では、思い思いのペースで散歩する人や、寝そべって空を眺めている人もいる。
子供達は、必ず走り回る。
疲れ切るまでどこまでも走り回る。
理由は分からないが、笑いながら走り回る。
見ていた彼も、笑いがこみ上げてくる。

仕事で疲れ気味だった彼は、充分に癒やされたのでした。
また会社の人も、そんな彼を気遣って連れてきたらしい。
そして、そこから車で少し行くと、これが夏にはたまらない旨さのソフトクリーム屋さんがあります。


「いやあ、旨かったよ。近くに牧場があって、そこのミルクだって。」
そして、居酒屋での彼は、「八戸に行く機会があったら、絶対種差海岸はおすすめ。」
と、他の3人にPRしてくれていたのでした。
(ちなみに写真は、彼とは関係なく、僕のアルバムから)
そして、こんなことも
そんな、万人に優しい種差海岸は、地元の人たちや市内の企業の人たちのボランティアで整備されています。
ゴミ拾いをしたり、外来種の雑草を取り除いたりします。
『三陸復興国立公園 ボランティアガイドクラブ』
天然芝だけではなく、貴重な高山植物も生えているからです。
この地方には梅雨時になると、「やませ」という湿った冷たい風が吹きます。
農業には厄介だが、このおかげで種差海岸に高山植物が生えているのだそうです。
砂地であったり松林であったり、色んな立地条件が重なって、多種多様な植物が生えるようになったらしいです。
僕には門外漢なのですが、高山植物について知っている人は ”なぜ、ここに!” と驚くみたいです。
そして、天然芝の上でヨガ!
種差朝ヨガ!
これも門外漢なのですが、あの芝生で運動することの快感はなんとなく判ります。
だけど朝だしなぁ~。
観光ツアーの企画にも乗ったりしているようです。
種差海岸は、かの司馬遼太郎氏が、もし異星人が現れて、日本のどっかを紹介しなければならなくなった時に紹介したい美しい場所、とおしゃったそうです。
東山魁夷氏も、この場所を描いています。
八戸市民の宝です。
八戸にお越しの際は、ゆっくり時間をとって、種差海岸を訪れてみてください。